他者論

物乞いに迫られて

日本にいるとホームレスを見ることはあっても,彼らにお金をねだられることはありません.
ただ,これは結構例外的で,世界的に見ると物乞いがいる国のほうが多いです.

特に,欧米圏に旅行に行って,スーツケースを引きながら観光地を巡っていると,高い確率で話しかけられます.向こうも観光客だとわかってるんですね.

僕も,なぜかやたらとこういった人たちに話しかけられました.おそらく舐められやすい見た目をしてるんでしょうね笑.

お金を乞うにしても彼らの手口も実に様々です.壊れたスマホと空の財布を見せてきて,「電車に乗りたいが,お金はないし,家族に連絡も取れない.小銭をくれ」と言ってくる人(オーストラリア),いきなりこのような花束を差し出してきて,話を聞いていると結局最後は子供を助ける活動をしているから寄付してくれとかなんとか言ってくる人(イギリス),”Do you speak English?”と話しかけてきて,アンケートなんかに協力しているうちに,仲間が財布やスマホをスる人(フランス),フードコートでご飯を食べていると,ポケットティッシュやキーホルダーなんかを勝手に机に置いて,売りつけてくる人(シンガポール)…

ロンドンのジプシー(注1)から貰った花束

他にもまだまだ,体験した手口というのはあるんですが,「物乞いの手口紹介」という投稿じゃないんでこの辺にしときます.とにかく,海外に行くと本当に物乞いというのは多いんです.

彼らに話しかけられた場合,こちらが分かりやすく拒絶反応を示すと,向こうもそういった対応に慣れているのか,大半の物乞いはあっさりと他の人にターゲットを変えます.

しつこい物乞い

ただ,時にはかなりしつこい物乞いにも出くわすんですよね.なかなか先に進ませてくれなかったり,仲間がやってきて加勢したりしてくる.(日本で言うと,原宿とか心斎橋のキャッチを思い浮かべてくれると結構です.本当にあんな感じです.)

僕の場合,こういった状況になると,こっちもヒートアップして,結構強い口調で”No”とか“Stop it”を連発したり,時には日本語でまくしたてたりします.(ちなみに日本語でまくしたてるのは結構有効です.これまで英語でしゃべっていたやつが,いきなりわけわからん外国語をしゃべりだすと,相手も状況が理解できなくなってキョトンとしてしまうので,逃げる隙ができます.)

正直,周囲から見ればお互い品がなく見えるでしょうが,僕が言い返す行為はあくまで自己防衛のためであって,社会的には容認される類のものだとは思っています.結局,下手にやさしく対応するとボられる(ぼったくられる)かスられて終わってしまうわけですし,そのあと現地の警察に行ったところで「やられたお前が不注意だった.終わり.」となってしまう.原則,自分で対策をとるしかないんですよね.

でも,よくよく考えてみると,彼らは(国際)社会の被害者なわけです.格差の大きい社会で物乞いにならざるを得なくなった人,出稼ぎをするため・政治的混乱から逃れるためにやってきた移民.そんな彼らに対して,僕はわざわざ海外に渡航できるだけの金銭的余裕がある日本人なわけです.

テレビでは,たまに海外の貧困層の生活を特集した番組なんかをやっています.僕はけっこうそういう番組を見るクチで,彼らの苦境を見てると「大変やな―.資本主義も社会を良くしてるわけじゃないよなー」と思う.でもそれは,空調を効かせた部屋でコーヒー片手に,どこか他人事のように見ていたにすぎなかったものです.
もちろん,こういった社会の現状が良くないということは頭ではしっかりわかっているつもりなんです.

それでも,いざ海外でそういった層の人と遭遇すると,それまでの気持ちはどこへやら,ただ迷惑な奴としてしか見えなくなってしまう.自分の中で「テレビの中の憐れむべき弱者」と「目の前にある迷惑な物乞い」が同一な存在として合致することはないのです.

もちろん,だからと言って物乞いにお金を乞われたら「ハイ,どうぞ」とお金をポンポン気前よくあげるわけにもいきません.

じゃあ,優しい言葉をかけてあげたらいいんじゃないかと思われるかもしれません.ですが,こっちが下手(へた)に下手(したて)にでると,そこに付け込まれる可能性がありますし,彼らにしても「同情するなら金をくれ」という有名なフレーズがあるように,ただ世間話をして時間を無駄にするつもりもないのです.彼らにとって「物を乞う」というのは仕事なのですから,あなたがお金を払う気がないのならさっさと次の人に行きたい.

僕の対処法

結局のところ,どうすればいいんでしょうか.

残念ながら一般的な人が彼らにしてやれることというのは金銭的援助をすることだけでしょう.彼らの悩みに直接耳を傾けたり,彼らのために何かをしてあげる,ということは現実的には無理です.ほとんどの人は,自分のことでいっぱいいっぱいですから.

問題はいかにして彼らに対する金銭的援助をするのか,ということです.

僕は物乞いにお金をねだられても払いません.彼らに直接現金を与えるならば,彼らに対して職業訓練などを行っているNPOなんかに寄付したほうが生産性があるとおもっているからです.

別に,海外で物乞いにお金を求められたからって,その国の経済的弱者に寄付するわけではなくてもいいんです.
その対象が日本人であろうと,中国人であろうと,フランス人であろうと,それが経済的弱者に対するものであれば構わない.とにかく,年に一回くらいネットで自分共感できる活動を行っている団体に千円くらい寄附すれば十分じゃないでしょうか.

なお,ここではっきり言っておきますがこれは決して彼らのためにやっているわけじゃないんです.
単純に,自分の罪悪感を薄めるためにやっているわけです.
いわば現代の「贖宥状(免罪符,注2)」みたいなものです.お金を払うことで「赦し」という安堵感を得る.
贖宥状と寄付が違うのは,前者の売り上げが教会の私益を肥やしたのに対して,後者は本当にお金が必要なところにいく(はず)という点だけでしょう.

これが正しいのかどうかはわからないですが,これが僕が決めたやり方です.

ウェールズでの体験

僕がイギリス留学中の,ある冬の朝,カーディフ(イギリス南西部:ウェールズの首都)に剣道の練習に行ったときの話です.道端で70代の,ぼろぼろの服を着たおばあちゃんにお金をねだられました.彼女は「今朝は寒くて凍えそうだから,一杯のホットコーヒーを飲みたい.1ポンド(約150円)くれないか?」と尋ねてきたんです.彼女の話す声は震えており,それが寒さのためなのか泣いて声が上ずっているためなのか,僕には区別がつきませんでした.多分,両方だったと思います.

そして,そんな彼女を前にしても「またジプシーか….さっきの信号渡っとけば話しかけられずに済んだのにな…」と思ってしまう自分.まあ,運が悪かったかなと思い,1ポンドだけなら,と彼女に手渡してあげました.

そうすると,彼女はこっちの顔を見て”Thank you. Thank you.”と言ってくる.こっちの目を見て,もうほとんど泣いている表情で,ひたすら”Thank you, Thank you.”と言ってくるんです.

自分の年齢の3分の1も生きてきていないような,外国人の若者にたった1ポンドの施しを懇願し,それを受け取ると,今度は涙ながらに感謝の言葉を口にする.同じことをやれと言われても,僕には絶対できないでしょう.

僕の中での物乞いへの対処方針は基本的に上述した通りです.
でも,この時の光景を思い出すと,正直「このやりかたであっているのか」という思いを消し去ることはできません.

ー ー ー ー ー ー ー

ジプシー―主にヨーロッパに散在する少数民族ロマの他称.歴史的には放浪を繰り返してきた民族集団であるが,近年では各地で定住して暮らす者も多い.

贖宥状―16世紀,当時のローマ・カトリック教会がその財政を維持するため,「購入すると現世の罪が赦される」という贖宥状を市民に対して売り捌いた.この販売は半強制的に行われた場合もあり,農民たちに対する負担は大きかった.そしてこの状況に疑問を抱いたルターが公開質問状を教会に送り付け,宗教改革に発展していったわけです.

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