文化論

知識は中途半端にあると危険であるということについて -前編-

人がある物事に対して,それに対する知識が全くない場合と,少しある場合どちらが危険,つまり誤った考え方に陥りがちになるでしょうか.
頭がまっさらな時ももちろん,根拠のない風説に影響されてしまうということはあると思うのですが,個人的には
下手に知識がある状態が一番危険なんじゃないかと思います.

合理化したい自分

中途半端な知識があると,何がダメなのか.結論から入りましょう.それは安直に「理由付け」をしてしまうからです.
人は合理性を求める生き物です.例えば,昨日まで仲良くしていた友達が今日,いきなりシカトをしてきたとしましょう.
自分としては無視される理由が全く分からない.その友達に対して何かをしでかしたということが身に覚えもない.
ただ,口をきいてくれない,自分の存在を認めてくれないという事実しか存在しない.
これはかなりキツいんですよね.
だってどんな感情になればいいのかすらわからなくなってしまうわけですから.相手がただ誰かにそそのかされて
あなたに対するいじめに加担し,その手段として無視という行動に出たなら,まだ相手方を悪者にして対処を考えればいいわけですが,
そうでないのであれば,一方的に相手が悪いとも思うことができない.「もしかしたら自分が何か相手の気に障ることをしてしまったんじゃないか」
とも考えられる.結局,この状況に陥ってしまうと絶対的正解を導き出すことはまず不可能なので,事態の進展を図ることもできなくなってしまうわけですね.
ずーっと心の中のモヤモヤを抱えつつも,極力その問題については考えないようにするしか現実的な対処法はないわけです.

そうであれば,無視される理由が全くわからないよりも,たとえそれがいじめという形での裏切りであっても,理由が明らかになるほうが,
”気持ち的には”まだすっきりするはずです.

つまり人間は「分からない」という状況が不快だから,なんとかしてその状況から脱しようとする.
だから当然,ある事象が発生したときやつながりが不透明なAという事象とBという事象が存在する場合,その発生原因や二つの関係性を論じるために手持ちの知識を使って合理化を図ろうとするのは自然の摂理というものです.「今日の夕飯の時に父親の機嫌が悪かったのは,パチンコで負けたからだな」とか
「AとBが放課後,いつも一緒に教室を出ていくということは同じ部活をやってるのか」といった風に考えることは我々が普段からしていることです.

中途半端な知識の危険性

ただ,これは危険なことでもあります.というのも,一つの理由を選択するということは,そのほかに考えられる大勢の理由を無意識に排除してしまうことになる.
例えば,x+y=10 y+z=31 z+x=27 という等式があってx+y+zを求めるとします.
初等数学を理解していれば,連立方程式でx,y,zの各値を出してそれを足すという方針は一番自然に出る解法でしょう.
しかし,一度この解法を知ってしまうと
2(x+y+z)=(x+y)+(y+z)+(z+x)=10+31+27=68よりx+y+z=34という,よりエレガントな解法は
なかなか思い浮かびにくくなってしまう.

また,人間というのは基本的に程度の差こそあれ,ある程度保守的な性質を持つものだと思います.
特に,ある知識を長期に渡って有してきた場合,急にそれにとって代わるような知識を持つことは困難だと思います.
要するに,初期の知識形成によって,今後のその問題に対する立場というのがある程度決まってしまう.(学派が存在するのもこの理由でしょう.
「この教授の弟子になりたいからこの大学でこの学問をしたい」と大学に入学してくる学生はほとんどいないでしょうから,
大多数の学生は在学中に教授のアイデアに”洗脳”されて同じような考え方を抱くのだと思われます.)
もちろん,全く偏見のない中立なものの見方をするということは不可能ですが,それでも学習の初期に極端な考えや,あまりにも出来すぎている理論
を耳にしてしまうと,今後の思考に少なからぬ影響を与えてしまうことは否定できません.

「知らないこと」の語り方

僕は,「自分の知らないことについて何も語るな」とは言っていません.そもそも「自分が何を知っているか」と問い始めれば,
それは哲学的な一大問題に発展してしまいます.僕が言いたいのは,知らないことについて語るときには受け手に対し「自分はその問題に対して実際的な知識を持っているわけではない」
ということを明確に表現すべきであるということです.どこまでが客観的事実で,どこからが自分のアイデアかをはっきりさせよ,ということです.

つづく

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